« キセキレイ | トップページ | 風切り羽(かざきりばね) »

2009年11月20日 (金)

幻燈(げんとう)とマンゴスティーン

ガラス板製のスライド・フィルムに『のらくろ2等兵』の漫画が2コマ並んでいる。幻燈機に電球をセットしてスイッチを入れると、襖(ふすま)の白いスペースにのらくろ2等兵の姿がカラーで大きく映し出された。ガラス板10枚くらいで一話。『のらくろ』以外の外題があったかどうか、憶えていない。エレクトリック紙芝居だが、部屋を暗くして襖に映る鮮やかな緑や赤に目を見はった。文字通りラテルネ・マギカ(魔法のランプ)だった。幻燈機と言わず「ゲントウ」と呼んでいたが、どうして「ゲントウ」がわが家にあったのか。その来歴は聞かなかった。おそらく、戦時中ぼんこちゃん(長兄のことを家族はそう呼んでいた)に父が買い与えたものだったのだろう。

「ゲントウ」の中に、南方のジャングルで猿たちが手をつなぎ尻尾を絡ませて谷川に橋を渡す絵柄があった。その情景に赤い果実が描きこまれていたのかどうか、父がいきなり「マンゴスティーンはどんな果物よりもおいしい。果物の女王だ」と胸をはって言った。どんな姿かたちをしていて、どんな味だったかは言わなかったから、父はたぶんマンゴスティーンを食べたことなどなかったと思う。しかしその時以来、私の中で、ながらくマンゴスティーンは南方のジャングルの緑の闇に妖しい輝きを放ち続けていた。

何年か前、果物店で「マンゴスチン」と称する、卵より少し大きくテニスボールより少し小さい深紅の果実を見つけて買った。果皮の内側にはシャーベットのような白い果肉が納まっていた。おいしかった。この「マンゴスチン」はひょっとするとマンゴスティーンかもしれないと思った。しかし、それ以来マンゴスティーンはいつしか神秘の輝きを失っていった。

「マンゴスチン」はやっぱり「マンゴスティ-ン」ではない、と私はかたくなに思い込もうとしている。

Photo

« キセキレイ | トップページ | 風切り羽(かざきりばね) »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1221163/31955233

この記事へのトラックバック一覧です: 幻燈(げんとう)とマンゴスティーン:

« キセキレイ | トップページ | 風切り羽(かざきりばね) »

2017年2月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28        

星座 (リンク集)

無料ブログはココログ