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2009年10月18日 (日)

満山紅柿(まんざんべにがき)

十年ばかり前のことだが、弁天町のシネ・ヌーヴォで小川伸介監督の映画『満山紅柿』を見た。山形県蔵王連山の麓(ふもと)上山地区の「紅吊るし柿」作りの工程を、小川監督が1984年から1992年に亡くなるまで撮り続けた5時間半のフィルムを、中国の女性監督彭小蓮(ペン・シャオリン)が追加撮影し完成させたドキュメンタリーである。

『満山紅柿』のタイトルに惹かれ、満山に紅柿が照り映える情景が見たくて映画館に足を運んだ。皮をむき十数個ずつ紐で繋いだ紅柿が簾(すだれ)状に、何段もの高い棚に吊るされ明るい秋の陽ざしを浴びて輝く情景に、息を呑んだ。

人々の手と心の温もりが、淡い黄赤(きあか)の渋柿を深く沈んだ重い朱赤(しゅあか)に変えてゆく。それは日本一渋い柿が日本一甘い干柿へと熟成してゆく過程でもある。柿と交わる人々の表情のやさしさ、穏やかさ。自然に懐かれ自然を信頼して働く人々の「人間としての奥深さ」がそこににじむ。どの柿の木にも数個の実が高い梢に残されている。小雪が舞い始めるころに鳥たちがついばむそれらの実は「守り柿」と呼ばれ、人間が鳥たちに託した天への捧げものだそうだ。

今年の柿はことのほか美味い。卓上に柿を切らさないために、スーパーから柿を運ぶ毎日である。

山崎方代さんに、

  「甲州の柿はなさけが深くして 女のように赤くて渋い」

という歌がある。山形県上山の柿もきっと「なさけが深くして 女のように赤くて渋い」に違いない。

渋い「女」(じゃなくて、「柿」)ほど、熟せば甘い。「渋い」という日本語は、それにぴったり一致する西洋語を持たないようである。その類義語を探せば、英語でもドイツ語でも、bitter(ビター)であろうか。薬の副作用で味覚が混乱している私だが、今いちばん口に合うのは、bitter-sweetな味である。(下の写真は近所の柿)

Kaki

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