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2009年7月24日 (金)

土門拳 『風貌』(正・続・続々)

土門拳の『風貌』は明治・大正・昭和の文化人86人を撮った写真集である。日本近代文化を担った人々と言っていい。土門は明治42年の生まれ。彼が26歳から41歳まで、つまり第2次大戦中から戦後にかけて撮影したもので、写っている人々のほとんどが老人である。写真家土門の被写体に向き合う捨身の構えには鬼気迫るものがある。『風貌』3巻は、近代日本史の「現場」にわれわれを立ち合わせてくれる。『風貌』3巻を知らずして、近代日本を語るなかれ、と思う。土門のカメラは残酷なまでに、被写体の肌のつや、しわやしみ、涙腺のゆるみにまで肉薄する。そうして、巨魁たちの内面をあぶりだしてみせる。無残といえば無残だが、真実とは多くが無残なものだ。

土井晩翠を撮った写真がある。亡くなる3年前、当時すでに病重篤で床にあった晩翠だったが、撮影当日はきちんと羽織袴に着替え、ベッドの傍らの籐椅子に威儀を正して座っておられた。与えられた時間は少ない。「さすがにシャッターの合間合間には、苦しそうな息を大きく吐かれるのだった。フト、そこに僕は病中の老詩人の切ないほどの真実を感じた。それからは、先生の呼吸をジッと計って、息を抜かれた瞬間に抜き打ちにシャッターを切った。他人の目には残酷な所業に見えたかもしれない。しかし僕にとっては、この老詩人が生き抜いて来た八十年の強靭な生命力をフィルムに造形しようとすれば、そうするより仕方がなかった。」

土門の文章は、洒脱ななかに、有無を言わせず人を納得させる気迫に満ちている。土門もまた、まちがいなく近代日本文化の巨魁である。

講談社文庫 土門拳 『風貌』(正・続・続々)は現在絶版のようである。

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