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2009年7月30日 (木)

木について(2) オヴィディウス『変身譚』

ギリシア神話の楽人オルフェウスが七弦の竪琴(リラ)を爪弾(つまび)くと、その楽の音に誘われて山野の鳥獣がこぞって彼のまわりを取り囲んだ。樹木までが根を引きずって彼のもとに駆けよって、木蔭をさしのべた。それにしても、木が駆けるとはただごとではない。古代世界で楽音が、神の声として機能していたことを窺わせる。オヴィディウスはそれらの木々の名を逐一挙げている。

 「樫の木がやってくる。パエトンの姉妹たちが変身したポプラたちもやってくる。高い葉をつけた柏、しなやかな菩提樹、山毛欅(ぶな)、処女ダプネがなり変った月桂樹、――それからもろい榛(はしばみ)、槍の柄に使われるとねりこ、こぶのない樅(もみ)、たわわに実をつけるうばめがし、人目を楽しませるプラタナス、斑(ふ)入りの葉をもつ楓(かえで)。さらには、河辺に生える柳や、同じく水を好む蓮(ロートス)、常緑の黄楊(つげ)、ほっそりとした御柳(ぎょりゅう)、緑と黒の実をつけるミルテ(てんにんか)、黒い実しかつけない忍冬(すいかずら)がつづく。まといつく常春藤(きづた)、巻きひげもつ葡萄樹、その葡萄樹に絡みつかれた楡(にれ)、ななかまど、えぞまつ、赤い実をつけた野いちご――そんなものも、オルフェウスを慕い寄る。」(岩波文庫 オウィディウス『変身物語』)

オヴィディウスの「語り」は、それぞれの木の特質を簡潔に的確に捉えて比類がない。オルフェウスの竪琴の音に誘われて、それぞれの木がそれぞれに独自な精妙な葉擦(はず)れの音を響かせているかのようである。

ちなみにバーナード・エヴスリン『ギリシア神話小事典』(社会思想社 現代教養文庫)では「木々も大地から抜け出し、根を足がわりに跳びはねながら音楽を奏でるオルペウスのあとに従った」と記されている。エヴスリンのこの『小事典』は、まことに小著でありながら、解釈のユニークさ、語りの巧みさで類書の追随を許さない。 (挿画は、ロダンの彫刻オルフェウス。)

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