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2009年6月15日 (月)

エン・エル・ムンド

映画では<踊るシーン>がいちばん好きである。芸能としての舞踊、芸術としてのバレー、肉体の極限的な躍動を示すモダン・ダンスよりも、普通の人が普通に踊る場面のことである。スペインの映画監督ヴィクトル・エリセの『エル・スール(南へ)』は、父との心の通いと別離(父の死)を通して「南へ」、つまり世界へと旅立ってゆく少女エストレーリアの物語である。スペイン内戦の暗い過去が、父と母と娘の家族に、互いへの<静かないたわり>を強いている。この北の「カモメの家」の静寂の中で、風見のカモメだけかたかたと冷たく鳴っている。エストレーリアの初聖体拝受の日、南から祖母と父の乳母がやってくる。神の花嫁の衣裳を着た少女は、父が撃つらしい猟銃の音に表情をこわばらせる。父は教会に背を向けてきたのだ。聖体拝受を受けたエストレーリアは席に戻ろうとして、会堂の奥の闇にたたずんで自分の方をじっと見つめる父の姿に気づく。その夕べ催された祝宴で、父と娘は弾けるように「エン・エル・ムンド」を踊るのである。父と娘の心の通いをこんなにも美しくこんなにもしみじみと描いた作品を私は知らない。

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