Hさん、ごめんなさい。
夕刻が急速に薄闇を広げ始めたころ、神戸からの帰り、箕面線牧落駅で降りてわざわざ千里川にまで足を伸ばした。川沿いを下って帰宅の途中、野鳥仲間のHさんとばったり。「いましたか?」とHさん。「いやぁ、ダメです」と私。「ここへ来るまでに2羽見ましたよ」とHさん。「こんな時刻にですか。幸運でしたね」と、私は半信半疑でほとんど「聞き流した」のだった。
Hさんはいつもこの道で私と会うと、自分はカワセミを見たとさらっと言われるのだ。そんなとき、私は決まって「今日もいなかった」と落胆している。私は「Hさん、見まちがったんじゃないの?」とは口に出して言わないが、心では半分そう思っていた。
ところが今日、Hさんと別れて数歩行ったところで川べりの茂みに青いものが見えた。自分の目を疑った。「まさか」と思った。「Hさん」と呼び返すぶことはできない。私は息を殺し、目を凝らした。やっぱり、まちがいなくカワセミだった。
「Hさん、いました、いました。あなたの言うとおり。疑って、ごめんなさい」と心の中で謝りながら、カメラのシャッターを押し続けた。暗いから、どうしてもピントが合わない。目を凝らし続けたので、涙が出てきた。「さあ、存分に撮ってください」と言わぬばかりに、カワセミはその場を動かない。闇が深くなった。私の方がカワセミを残して、その場を去った。
100メートルばかり行ったところにもう一羽いた。もう写真には撮れなかった。Hさんの目もことばも正確だったのだ。Hさん、ごめんなさい。
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